自閉症の世界

~自閉症の世界を知って、障がい児の子育てに役立てよう~

洗濯奉行

自閉症の子どもを持つ親御さんは

子どものために出来るだけのことをしてやりたい!

切にそう思って努力されている。

 

言語療法を受けさせたい!

行動療法をうけさせたい!

感覚統合訓練を受けさせたい!

ABA(応用行動分析)を受けさせたい!・・・etc.

 

しかし、それには時間とお金がかかる。

それが出来ないなら、家庭でしっかり子どもに向かい合って遊び相手をしてやりたい。

 

でもでも時間がない、忙しい、相手をしてやる時間がない!

 

自分はなにもやってやれないんじゃないか、と自責の念にかられるお母さんもいる。

 

療育していた平成時代、何人ものお母さんからそんな気持ちを聞かされた。

 

相手をしてやる時間がないと聞かされる度、私はいつも同じことを言った。

 

「わざわざ時間を作って相手をしてあげる必要はありませんよ。

遊んでやってるつもりで自分の仕事を手伝わせなさい。一人でやった方が早いかもしれないけど、そこは一にも二にも忍耐、根気で。」

 

それを実行したお母さんが何人もいます。

 

水遊びこだわりを、茶碗洗い、風呂掃除、洗濯に昇華させて、子どもを主婦代わりまで育てあげたお母さん。最高の療育者です。

 

「アンバランス?それ違います。」でも紹介した支援高校一年の重度自閉症の親は

高齢結婚、高齢出産だった。

 

 

そのうえ両親は共働きだったため、遊び相手をする時間がない。祖父母さんはいたが。

そこでみっちり家事を仕込んだ。自分の家事に付き合わせた。

 

 両親はもう若くない。

 

パソコン教室に来た彼の連絡帳にお母さんのコメントが書いてあった。

 

高校生といえばもう親の傍にはあまりいない年頃なのに、息子は一緒にいてくれる。

そして嫌がりもせず親の手伝いを良くしてくれる。

体にガタがきて重いものを持ち運べなくなった父親の代わりに、荷物を運んでくれる。

庭仕事もよく手伝ってくれる。

台所仕事も言われて渋々やるのではなく、気を利かせてやってくれる。

とても助かっている。

 

子育ての苦労を忘れて、息子に感謝する言葉が書いてあった。

 

また、ある支援学校の高等部3年の息子(彼もパソコン教室に通っている。)を

「我が家の洗濯奉行なんです。」と連絡帳に書いてきたお母さんもいる。

 

こばとに通い始めた幼児期は、息子は言葉のない重度自閉症,超こだわり、超偏食。

今はガタイのでかい、マッチョ体型の働き者。

 

どれほどの苦労があったか、お母さんは忘れたよう。

 

彼は、洗濯を一手に引き受け、干して取り込むところまでやってくれる。

でも時々、なかなかやろうとしないので、お母さんが洗濯をしようとすると、怒る。

低姿勢でお願いすることになるのが何ともしゃくにさわる。そして何が気にくわないのか、家族の誰かの洗濯物をやらずに、残しておいたりすることもあるそうだ。

 

洗濯奉行はうれしい反面、こだわりでもあるかなぁ、と悩みも書いてあった。

 

「彼も機械じゃないんだから、やりたくない時だってあるんじゃないですか?譲れることが今後の課題だね。」と私は返事を書いた。

 

やりたくない気持ちを言えた中学生もいた。

 

風呂掃除をみっちり仕込んだお母さん。

風呂掃除は彼の係として定着した、任せれるものが出来たと喜んだ。

ある時、息子がいつまでも風呂掃除をやらないので、お母さんは痺れを切らして、

やるように促した。

ところが息子は「今度はお母さんがやれば。」と言ったそうだ。

 

自閉症だからって、なんでもパターンを押し付けられてはたまらない。

やりたくない時だってある。それを言えることも大切だ。

 

今は社会人になって特例子会社で働いている青年。

こばとに来た時は言葉は無く、お父さんは「彼が喋れるようになるとは思わなかった。」とよく私に言っていた。

一人息子の三人家族。

お母さんが入院した時、父親以上に家事をこなしてとても助かった、と彼の母親は

友人(パソコン教室に通っている自閉症女性の母)に嬉しそうに話したそうだ。

 

家事の手伝いは家庭でなければできない。

よそにどこにも頼むわけにはいかない。

 

将来、年老いた親が楽するためにも、早い段階から家事をこつこつ仕込んでおくことをお勧めする。

文句も言わず手伝ってくれる彼らはきっと支えになってくれるはず。

 

まだまだ先の心配はひとまず置いて。

 

 

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