自閉症の世界

~自閉症の世界を知って、障がい児の子育てに役立てよう~

恋心

 自閉症に対する一般的なイメージは大方

  

  目を合わせない、

  人を避けたがる、

  人と関わらない。

  人に興味をもたない、

  集団の中にいられない、

  孤立を好む、

 

のように、作り上げられているのではないかな。

 

しかし、皆が皆そうではない。

 

中には人が好きで、関わりたくてしかたがない自閉症児もいるのだ。

 

 そういう子は言葉を伴わないちょっかい出しをしてアピールする。

 

悲しいかな、それは問題行動、こだわり行動のように受け止められて、制止の対象、監視の対象にもなりかねない。

 

なんとも残念だが言葉という伝達手段がないので適切に関われない。

言葉があっても、その場で適切なセリフが言えない。

 

好きな子がいると気を引きたくてつねったり、物を取ったり、押したりしてしまう。

加減が分からない。

本人は軽くつねったつもりでもあざが出来ることもある。

距離感が分からず、密着してしまい相手に嫌がられる。

 

 

自閉症にも<好き>という感情はある。適切に表現できないのが残念だ。

 

療育中のプチ恋愛 

 

こばとは平成元年の開設以来、療育希望者が多く同学年は20人程度に抑えていた。

そうでないと夏合宿など企画構成、部屋割りや引率が難しくなるので。

そのため就学前で定員になってしまい、就学後の希望者は受け入れられないでいた。

 

例外的に就学後に受け入れていたのは女子。

発達障がい児は圧倒的に男子が多く女子が少ない。

女子が欲しい理由は、

夏合宿の時、女子だけのグループを作り、女子専用の部屋を確保するので、ある程度女子の人数が必要だった。

 

彼女も就学後に療育を引き受けた自閉症女子の一人。

軽度の自閉症ということで、小学校普通級に入学していて、2年生の時にこばとの療育を希望してきた。

 

 幼児期自閉症状があったので、公的療育機関に通っていたが、その時の友達は何人もこばとに既に通って来ていた。

 

彼女の母親は重度の自閉症児が多く通うこばとの療育は、軽度の我が娘には必要ない、と考えていたようだ。

 

たしかに、喋り方に癖はあったが、彼女は言葉もあり好きか、嫌いかの意思表示もはっきりしていた。

激しい性格で、耳ふさぎもあった。

とくに咳の音をを極端に嫌がった。

兄が一人いたが、風邪の季節は家庭でも困難場面が多いとお母さんは悩んでいた。

 

 

 その彼女が6年生の時、同級生の男子を好きになった。

もちろん健常児。

その彼に対して、クラスのみんなが居る前で(二人きりになることはにので。)

「〇〇君好き!」と大声で度々言ったそうな。

 

〇〇君は「恥ずかしい!」と先生や親に訴えた。

彼からは嫌われ、先生や親からのきつく注意される顛末となった。

 

 彼女にしてみれば、好きな人に好きといって何が悪い?

 何故嫌われる?という気持ちだったろうが、大人に注意されて以後言わなくなった。

 

スタッフに「私のこと、好き?」と聞くことも多くなった。

 

そして、どうすれば好かれるのか、彼女なりに考えたのかもしれない。

一時期、こばとの療育にくる時に、おもちゃらしいキラキラもの、ネックレスやイヤリングを身に着けて来た。

 

彼女の気持ちをいじらしく思って、飾り物を注意したり、外すようには言わなかった。

そのままにしておいた。いつの間にか身に着けて来なくなった。

 

 

男子にも年頃になると「好き」という感情は芽生える。当然のことではある。

 

目の大きい美形男子。

会話可能な軽度ではあったがバリバリの自閉症で、電車のみが彼の興味の対象。

小学校は支援学級に入り、やることはやっていたが、友達に意識は向かなかった。

 

夏合宿でグループで集合しても、彼は一人だけあさっての方を向いて、

担当スタッフもグループの友達も見ていないような男子だった。

 

 

その彼が中学生になり、<社会トレーニング>という中学生対象の月一回の活動に参加するようになった。

 

(社会トレーニングは12,3人ひとグループにスタッフ2人が付き添い、様々な社会経験を自力でこなす練習、という活動。)

 

そこで彼は別の中学級の支援級に通う軽度自閉症女子が好きになった。

 

 「好き!」とは口で言わなかったが、活動中に撮る集合写真の時、いつもさりげなく彼女の横に並んでいた。どの写真でも横にいた。

 

そして、彼女に話しかけたい気持ちもあった。

彼女は電車に興味はないだろう、と思ってか、あんなに得意な電車の話はしなかった。そのかわり中学校で共通にやるようなことを聞いていた。

「作業は何班ですか?」

「合同発表会でなにやりますか?」とか、

彼女が答えてくれそうなことを聞いていた。

 

私は何気ない振りで、傍で聞いていて口元がにやけてしまった。

 

いじらしいなぁ、彼なりに一生けん命。

 

自閉症であっても<好き>という気持ちは芽生えるし、

否定したり封印させるべきでもないと思う。

 

ただ、対人との距離感がつかみにくい彼ら。

接近しすぎたり、ストーカーのように付きまとったり、

じっと見つめすぎないよう

年頃になったら、嫌われない方法を教えていかなければ。

 

精神的成長のためにも恋心は必要だ。

 

 

 

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