自閉症の世界

~自閉症の世界を知って、障がい児の子育てに役立てよう~

長い道のり


なんか育て辛い、

抱っこしても体が反り返り,しっくり抱っこできない。

睡眠と覚醒のリズムがなかなか整わない。

1歳の誕生日を迎える前までに、

普通と違うんじゃないか、

と疑惑を抱かせる子どももいる。

 

しかし大半、はっきりと不安になるのは2歳過ぎ。

出ていた2,3語が消えてなくなった。

指差ししなくなった。

出てきてもいい頃なのに言葉が出てこない。

アイコンタクトも共同注視もない。

呼びかけに振り向かない。

笑み返しもない。

不安が黒雲のように広がっていく。

 

それでも遅いと思っていた言葉が出てくるとほっとする。

しかし、言葉はなかなか増えていかない。

障がいがあるとは信じたくない、体は順調に育っているし。 

 

そんな迷いの中、幼稚園の年中組の双子(二卵性)の息子を連れて

こばとの療育相談に来たお母さんがいた。

 

双子の息子は自分たちだけで通じ合う言葉を交わし合って、楽しそうに遊んでいる。

しかし、周りの大人には何のことかわからない。わかる単語もあるにはあるが。

 

困惑した表情でお母さんは二人の生育状況を話した。

 

私は申込書には書いていなかったことをいろいろ問診した。

二人の男の子の様子をしばらく観察した。

お母さんと話をしている間は、幼児教室担当のスタッフが症状の判断材料になる

課題をやらせたり、簡単な質問をしたりしていた。

 

「私はお兄ちゃんの方は認知面は高いけど自閉傾向が強いね。弟君の方は知的にはお兄ちゃんより低いけど自閉の症状は少ないね。」と話した。

双子は軽度の自閉症と知的発達遅滞だった。

 

お母さんは自閉傾向という言葉に納得いかないようだった。二人を大学に行けるように療育したいと言っていた。

 

双子の息子は小学校な普通学級に進んだ。

多動も攻撃性もない、おとなしめの二人だったので大きなトラブルもなく

6年までいけた。

 

こばとの療育中は定期的に面談がある。

その時はいつも兄の方の理解しにくい行動について相談してきた。

兄の方が記憶力がよく、学業は良くできるのに。

 

その度に自閉症の傾向や特性を話した。

彼女は私の言葉を承服出来ないようで、私と面談するとなぜか涙が出てしまう、

といつも言っていた。

 

息子達が中学生になる時、公的機関で検査を受け診断してもらった、と言った。

結果を報告してくれたお母さんは、

いつも私に言われていたことと同じだった、と言った。

 

お母さんは複雑な落ち込んだ表情だった。

私はこの時まで信じてもらえていなかったのだ、と分かった。

肩書や権威がない私は複雑な気持ちだった。

 

息子たちはこばとの「中学生教室」にも通った。

「社会トレーニング」にも参加した。

お母さんは現実を見据え、息子たちの将来を具体的に考えるようになった。

大学進学は忘れ去っていた。

 

息子2人は支援高校高等部卒業後、

兄の方は彼の明るい性格を生かすサービス業、

弟の方は彼の優しい性格にぴったりの老人介護施設での仕事を得た。

 

障がいがあるとは信じたくない。双子の息子達は普通なんだと思いたい!

面談の度に私の言葉を信じたくない、と笑顔を見せながらも

不覚にも涙をこぼしていたお母さん。

 

信じたくないと言いつつ、こばとの療育に通わせ続けた。

息子たちに障害があると自分自身にカミングアウトするまで長い道のりだった。

 

面談の度に事実を言われて、自分の思いを一つ一つ捨てざるを得なかった

お母さんにとって、こばとは辛い思い出の場所だったろう。

 

息子たちの就職後はもうお母さんに会うこともないだろうと思っていた。

 

それが就職後しばらくたってから、お母さんはこばとに顔を出した。

息子達の職場での様子を話してくれた。

 

あの頃の気持ちに一区切りつけたような、明るい表情だったが、

やっぱり目には涙があふれていた。

 

        

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