自閉症の世界

~自閉症の世界を知って、障がい児の子育てに役立てよう~

慣れて来た頃にでる素

 


今年1月に特例子会社に就職した、自閉症青年のお母さんから電話があった。

 

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「ちょっと、職場で・・・」

 お母さんは心配事の相談をする時も、あまり深刻な声ではなく、内緒話をするような話し方をする人だ。

 

彼は重度の自閉症であるが支援高校高等学園を卒業した。

過去記事でも触れたことがあるが、

紙おむつ一発卒業の彼、何かにつけて運が味方する。

 

 kobatokoba-kosodate.hatenablog.com

 

 こばとに来た幼児期は言葉もなく、おむつも取れず、寝ころんで大声を出す

重度自閉症であったが、視覚認知は良く、いたずら書きに絵の片鱗があった。

 

  両親の一致したブレない療育方針と、彼自身の視覚・空間認知の秀逸さ、

几帳面・真面目な性格のお蔭で、思考を要しない学習は身について行った。

言葉は出たものの、オウム返しが殆どでパターン会話程度だった。

 

 御両親は可能性を信じてチャレンジする人たちだったので、

重度自閉症にはかなりハードルの高い支援高校をダメ元でと受験させた。

視覚的に覚えられる漢字や計算はOKだったが問題は面接。

 

 何を質問されても自分の名前を答えてしまう。

 

 私も受験希望を聞いた時、面接があるし~と、うなってしまった。

こばとで一人歩き、電車乗りは練習してあったので、

通学はルートを教えればOKだった。

 

保護者の面接もあるので時、

お母さんがかわりに、彼の能力を猛アピールしてみれば、と私は言った。

 

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合格した。

 

 彼は個展を開くほど絵画の方面ではすでに知られており、支援高校側としても

そっちに期待があったのだろう。

 

確かに学校行事のポスターなどで重宝されたようだ。

 

彼は高校時代、こばとのパソコン教室に通っていた。

 

 視覚認知・形状記憶に優れていた彼はパソコンも上達した。

もちろんローマ字打ち。操作手順は一度教えるとすぐ覚え、卒業頃にはチラシを見て、ワードで同じようなチラシを作れるまでになった。

 

 高校卒業も近くになってから、てんかんの症状が出た。

卒業後の進路についてお母さんと話すことも多かった。

 

 進路が決まらないと、喋らないので気にしているように見えないが、

自閉症青年は周りが想像する以上に悩む。

 

 彼もてんかんの発作のこともあり卒業間近になっても、

就労先・進路が決まらなかった。焦ることはないよ!!彼の強運を信じよう。

 

 すると、卒業と同時に、

たまたま1人分の空きがでた市役所内の就労支援の枠に入ることが出来た。

契約は2年間であるが、社会人意識、職業訓練にはちょうどいい。

 

市役所内就労支援は理解あるきめ細かい対応で、ご両親は安心して毎日送りだし、

彼も色んな仕事を経験させてもらい.よろこんで通っていた。

 

 いよいよ契約の2年が切れようという時、他の就労先に実習に行くことになった。

通勤の状況や就労環境を聞くと、一人になることもあるようで、発作が起きた時に

不安材料だった。お母さんにも伝えた。

 

 お母さんも不安に思っていたようで、実習には行ったが2週間のところを、1週間で打ち切りにしてもらったと言った。

 

 就労支援も次の実習先を探すよう候補をあげてきた。

そのなかに、実習は受け入れてないが、見学なら良いという特例子会社があった。

そこは安心して通勤させれそうな環境だった。

 

 彼とお母さんはダメもとで見学に行った。

 

 見学に行ったところ、何か気に入られたようで実習ができるようになった。

実習が終わる頃、制服の採寸をとられたそうだ。

お母さんはまだ就職できるか半信半疑のようだったが、

「そこまでいったら採用に決まりでしょう!!」と私は言った。

ここでも強運発揮

 

 1月末に入社し、真面目で丁寧な性格もあって、仕事は順調に行くかに見えた。

会社からもお褒めの言葉を貰っていた。

 

 会社にも慣れて来た頃と、安心していたお母さんのもとへ、彼の職場の直属の

上司から電話があった。彼の仕事態度について。

 

 乗客や乗務員の必要なグッズをセットして、ビニール袋に入れ紐でしばる仕事だが、

彼は注意されたことに最近従わない素振りをするという。

 

 破れたり、穴が開いたビニール袋は使わないで破棄するように言ったところ、

針の先ぐらいの穴にしか見えないのビニールも捨てようとする。

その位の穴はいいと言ったところ、指を突っ込んで穴を大きくしたというのだ。

 

 

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袋づめ

 

 
 素直だった彼の変化に驚いたようでもあった。

仕事内容が少し変わったせいもあるかもしれないが、と言っていた。

どういう注意と仕方をすればよいのか、一度職場に来てほしいというのだ。

 

 それで、お母さんは職場の上司と面談する前にどのように話を持って

いったらよいか、こばとに電話をかけて来たというわけだ。

 

 会社とお母さんがそのようなやり取りがあるということは、彼も察知していて

いるようだ、とお母さんは言った。

帰宅した後、ぽつりと独り言を言ったそうだ。

 

「会社・・・終わらない。」

 

 彼は会社を首になるのを恐れているのだ。会社は辞めたくないのだ。

 

「会社の指導に従わないとなるよ。」とお母さんはダメだししたそうだ。

 

 「慣れて来たから彼は自閉症の素が出て来たんだね。

 

彼は出来るようになると自分ペース、こだわり、先走りをする方じゃない?

それに頭ごなしに注意されると意地になってやったりタイプだし。

それになんでもキチンやる、やらねば気が済まない脅迫的なところもあるし。

 

 もともと彼は字もマスにきっちり入るように書き、服装もきっちりシャツをズボンの中に入れ、暑くとも第一ボタンまできっちり留める、など強迫性もあるから、針の先ぐらいの穴でも許せなくなったんじゃない?

 

 出来ると思っていることをストレートに注意されると、プライドが傷ついて

意地になってしまう人だから。お母さんもダメだしなどしないで

 上司には言い方を変えてもらうように言ってみれば?」

 

お母さんも会社と面談前にこばとに話せてほっとしているようだった。

 

 このぐらいのトラブルがあったほうが、職場で自閉症の彼を理解してもらえる

きっかけになってかえっていいのかもしれない。

 

 

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素の自分=食べることだけ