「慣れて来た頃にでる素」の続編
特例子会社に就労している自閉症の彼は、職場の上司から母親が電話で
呼び出しされたのをうすうす察知して、
くびになることを恐れている。(解雇を知っているのは驚きだ。)
自閉症児者は不安を言葉に出来ないが、周りの人間が思っている以上だ。
多分大丈夫だろう、
強運の彼のくびは繋がっていると楽観していた。
三日後、お母さんから面談の結果について長いメールをもらった。
彼の性格同様、几帳面なお母さんである。
困りごとやトラブル解決の結果の報告がなくても慣れっこなのに。
療育期間中はよく困り事や、トラブルがあったりすると突然電話がかかってきた。
突然の訪問があったりもした。
療育の連絡帳に長々を困りごとを書いてあることも多々あり、長々と返事を書いた。
しかし大抵その後の結果の報告はないことが多い。
しばらくしてから「あれはどうなりましたか?」と聞くと、
「あぁ、あのことですか?」とすっかり忘れている。
それでいい。
話を元に戻して、お母さんの面談結果のメール。
上司と支援員さんに注意の仕方を変えてもらうように話したところ、なるほど、と
いたく納得されたとのこと。
つまりストレートに注意するのではなく、肯定的な言葉で注意すると自閉症の彼は素直に聞く、ということが分かった。
肯定的な注意とは
「走るな!」・・・ではなく「歩いて!」
「登るな!」・・・ではなく「降りて!」
という具合にである。
面談は上首尾だったうえ、6か月の契約更新書類ももらったそうだ。
彼が市役所の就労支援で勤務していた時、こばとはやめたくないので
月1,2回の割でパソコン教室に通って来ていた。
お母さんとの連絡帳のやり取りもまだあった。
その連絡帳に父親がこばとと話をしたいと言ってので、
時間を作って欲しいと書いてきた。
私は都合の良い曜日と、都合のつく時間帯を連絡帳に書いておいた。
都合のつく曜日と時間を返事していたが、
事前の電話もなく、ある日の夕方、お父さんが突然訪ねてきた。多忙な人だ。
私は驚きの色を顔に出さないようにして、椅子をすすめた。
お父さんは大手IT会社に勤めている。
息子が自閉症という縁でで県内外の、同じように自閉症の子どもを持つ、
IT関係の人と知り合いになったり、仲間づくりをしている。
お父さんは息子のお蔭で世界が広がった、感謝している
と言っていた。
お父さんは椅子に腰かけるとすぐさま、メモ帳と思しきノートを机の上に出した。
IT関係会社の自閉症の父親のグループで
AIを自閉症の療育にどのように活用できるだろうか、という話が出ている。
もちろん、発語、会話の乏しい重度自閉症用にである。
自閉症は文法的に間違った話し方をすることが多いことから
それをAIロボットが聞いて、正しい言い方を教えるのはどうだろうか、
というアイデァがグループ内で出ているという。
私は「ん~ん」とうなった後に、
「自閉症は間違ったことをしつこく訂正されるのは嫌がるから、
いづれAIロボを避けてしまうことも考えられるねぇ。」
同じ頃、パソコン教室に通っていた支援高校の重度の自閉症女子。
過去記事で触れた便器に仁王立ちの彼女。
彼女も単語つなぎ、要求語多めの会話からなかなか発展しない。
ご両親はもっと会話を増やせないかと、少し高めの対話ロボを買い与えた。
お父さんはウェブデザイナー。
彼女には専用のパソコンやスマホを与えている。
自分の趣味に使いこなしている。さすが蛙の子。
重度自閉症であっても視覚認知記憶力は良く、教えたことは忘れない。
ワードはローマ字打ち。ワードで文章を打つのは早い。
分からない漢字は手書きパットと使って該当の字を探す。
イラストはキーワードで探す。うまいもんだ。
お父さんの話だと
彼女の対話ロボによる会話力向上は早々に頓挫したそうだ。
対話ロボはすぐに飽きられ、というより会話がかみ合わず練習にならない。
自閉症の話し相手になるAIロボ
私は「言葉の誤用を訂正したりせず、
何回でも嫌がらずにオウム返ししてくれ、
質問したりなどせず、
ゆっくりしゃべって、
たまに、自閉の子のひらめいたセリフを聞き取ってそれに合わせてくれる
そんな対話ロボならいいかなぁ~。」
と、お父さんに言った。
お父さんも、ロボによる言葉の誤用の訂正は自閉症向きじゃないと感じたようだった。
医学や脳科学がどんなに進歩しても、これが自閉症治療の決めて!となる薬や
療法は出てこない。
ITもAIもしかり。
教育界でも子どもにiPadを使わせようという風潮にもなって来ている。
障害児教育にはどうだろうか?
こばとでも療育期間中手作りした教材を、夜なべ仕事で市販ドリルに作り直して、全国に販売してきた。
一時はiPadで使えるアプリを考えたことがあった。
しかし、障害児の療育の出発点は指一本で画面をなぞることではなく
やはり、紙と鉛筆が基本だ!と、初心を思い出し、ぶれないことにした。
人間は道具を使いこなすことで進化してきたのだから、
手の機能を向上させることで発展してきたのだから。
こばとはまず、着席して鉛筆持って紙に目線を集中させることから始めたのだ。
脳の手作り。時間はかかるけどひと針ひと針。