自閉症の世界

~自閉症の世界を知って、障がい児の子育てに役立てよう~

潰しが効かない!!

 前記事の続き

 

人通りもほとんどなくなった、こばと事務室の前の道路

私が入口のドアから顔を出した時、たまたま彼が歩いてきた。

 

もう中年と言っていい、40代の中度自閉症成人。

マスクから見えるぎょろ目は変わらないが、頭頂部は薄くなってた。

恰幅、姿勢が良くまるで社長さんみたいだね、と私はよく言っていた。

 

私が小学校の「ことばの教室」に勤めていた時、

彼は隣の教室の特殊学級(今で言う支援学級)に在籍していた6年生だった。

 

几帳面タイプ。

文字はきっちりマスに入るように書き、髪の毛はいつも短めに刈り上げ。

シャツはきっちりズボンの中に入れ、ボタンは首元まで留める。

掃除をする時は必ず肘まで腕まくりをした。

目力あり、ぎょろっとした大きな目で、しっかり相手の目を見て話す。

自閉症とすぐわかる独特の、棒読みっぽいしゃべり方ではあった。

 

私が、髪を短く切っていくと彼は、

「先生、お坊主にしました。」と言って嬉しそうだった。

 

社会人になってからも、いつも彼の方から声をかけて来た。

私がどんな格好をしていようとも、

すっかり白髪になり、老けて小学校勤務時代面影がなかろうと

どこで会っても分かるらしく

 

(自閉症児の中にはいつもあってる場所ではわかるが、場所が変わると

はて、誰だっけ???みたいになる子もいる。)

 

寄って来て、「こんにちは!」と挨拶して

恰幅の良い体を、敬礼みたいに、背中尾伸ばしたまま腰を折って

握手の手を差出ながら、「仕事頑張っています。」と言う。

私も握手の手を差し出すが、時には両手で握られることもある。

 

 

この時も、

(彼は犬は嫌いなので、シェリーを事務室内に追いやり)

挨拶してから、握手の手を差し出してきたが、

「ごめんね、今はコロナウィルスだから、握手できないの」

と私は言った。

「コロナの時は、握手しません。」と彼は納得してくれた。

 

 

 

彼は現在、電車通勤で特例子会社に勤務しているが、

コロナ自粛で自宅待機になっていると言った。

 

今の特例子会社は彼の二度目の職場だ。

 

彼は中学校の特殊学級を卒業して、すぐに就職した。

母子家庭でもあったし。

当時はバブル期でもあり、

障害者であっても、そこそこコミュニケーションが取れて

真面目な子は就職できた時代だった。

特殊学級の先生方も、障がい児の職場を開拓し、

就労に向けてとても熱心に取り組んでいた。

 

彼は町工場のような個人事業所に就職した。

雇い主は理解のあるとてもいい人だった。

 

彼の家はこばとから少し離れた所にあったので、

夕方、仕事帰りの彼に駅近くの商店街で出会うことが何度かあった。

仕事帰りによく、甘いものを買い食いしていた。

 

彼は買い食いを恥じることなく、私に会うと、

大きな声で挨拶し握手をした。

社会人なので買い食いを注意することはなかったが、太るよ、とは言った。

 

いつも、仕事を頑張っている!と言っていたのだが、

ある時から、険しい顔で職場で注意されたと思しきたセリフを言うようになった。

 

バブルが崩壊したし、職場も代がわりして、

後継ぎになった雇い主は、彼を疎んじるようになったようだ。

辞めるように仕向けたのだろう。

 

長く務めた職場を30代の手前で辞めた。

止めさせられた頃に会った時は、表情も険しく、

会うとすぐ、辞めさせられた理由

(たぶん、何度も何度もお母さんが言い聞かせたのだろう)訴えるように言って来た。

 

しばらくして、ハロウワークつながりの

キャリアセンター(障害者の就職訓練と就労支援をやっている)に通うようになった。

 

1年過ぎた頃、また彼にばったり会ったが、

前のように、敬礼のようなお辞儀と「先生、こんにちは!」の挨拶と

握手の手を差し出して来た後に、

リクルートの特例子会社に就職できたということを、

眉根を広げた明るい顔つきで報告してきた。

 

それから、「キャリアセンター長くかかりました。」と言った。

 

きっと、周りの人からも言われたのだろう。

キャリアセンターはだいたい2,3か月目ぐらいには

再就職を支援してくれる流れのようなので・・・。

 

1か月程度で再就職に結びついた青年もいる。

リーマンショックで倒産した会社に、7年ほど勤めていた青年。

やはり、キャリアセンターのお世話になったが、

1か月過ぎには再就職できた。

前は建材の汚れ仕事だったが、

再就職先はブライダル関係の厨房のきれい仕事だった。

 

 

今、40代の彼が、キャリアセンターに一年以上も通ったということは

中学校卒業後勤めた職場が長かったからだ。

15年近く務めたことになるだろう。

小さな町工場、職場内の移動もなく、

同じ仕事を変わらず、ずっと続けていたのだろう。

 

それで、潰しが効かなくなっていたのだ。

 

几帳面な彼のことだ。

キャリアセンターで、きっちりやってきていた自分の仕事のやり方を否定され、

新しいやり方や、指示を受け入れていくということは、

どんなにか混乱、困惑を感じたことだろう。

 

自閉症でなくとも、前の会社でよし、と思ってやってきたことを

がらりと変えることは心身ともにかなりのストレスになるのだから。

 

よく頑張ったと思う。

 

彼の例があったので、

これから就労する子どもを持つ親御さんには、転職もありの時代なんだから

潰しの効く大人に育てるのが大事だよ、と言っている。

 

40代の彼は通勤路線が変わったので、

あまり会うことはなくなっていた。

たまたま、コロナ自粛で仕事休みになったので、

散歩がてら、こばと前を通って、

駅前に新しく出来た食料品店を見に来たのかもしない。

 

「会社のお休みはいつまで?」と聞いたら

「5月6日まです。」と断言した。

 

そうなってくれることを祈るばかりだが

緊急事態宣言解除なまだ先のことになりそうだ。

 

彼は休み延長をすんなり受け入れいれるだろうか?

融通の利く大人になっているだろうか?

 

 

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暑いから早く開けてよ!水!水!

コロナと熱中症のダブルパンチはごめんだ。