自閉症の世界

~自閉症の世界を知って、障がい児の子育てに役立てよう~

悪気・嫉妬・羨望

 

自閉症への先入観の色眼鏡ををはずせば見えてくる。

 

 自閉症児の仮面の下の感情

 

自閉症児は激しい(パニック・泣き喚き・奇声・怒鳴りetc・・・)

の感情だけがクローズアップされて・・・しまっている傾向にある。

 

周囲の大人は自閉特有の症状には過敏になるが、 

言葉にならない 他の微妙な感情にはなかなか気付きにくい。

 

言葉にしない感情は無表情の仮面の下に隠れている。

 

何を考えているか分からない、と受け止められる一方

無垢だ、ピュアだ、純心だ、悪意はないと思われがちだ。

 

そんなことはない。

それは誤解だ!

嫉妬、羨望、優越感、邪気、反発、恋慕・・・・

彼らも気持ちは普通にある、年頃になればなお複雑になる。

 

 

<療育中に感じた彼らの感情の片鱗>

 

二卵性、男・女の双子で生まれ、男児は言葉のない重度の自閉症

片割れの一方の女児は多動で、ちょっと心配な面がないではないが

定型発達でどちらかといえばおしゃべり。

親は女児には年相応の玩具を買い与えていたが、

自閉症男児には理解も出来ないし、遊びかたもわからないだろう、と

同じおもちゃは買い与えて来なかった。

面談した時の母親の困りごとは、

男児が片割れの女児が寝た後や、いない時に

女児のおもちゃを取り出していじったり。遊んだりしてしまうというものだった。

 

男児は同じおもちゃは欲しくない?羨ましくないとでも?

 差別されているのはわかるよ、感じているよ。

「双子なんだから、遊び方が分からなくとも同じものを与えてみたら」と言った。

 

 

また、2つしか年の離れていない男兄弟ふたりの家庭。

長男は言葉は殆どでない重度の自閉症

次男は定形発達の優しい子。

お兄ちゃんに手がかかることは知っていたのでお母さんに協力的だった。

お母さんが自閉症兄の世話をしていない時は、母と二人の会話を楽しんだ。

 しかし、自閉症兄はお母さんが見ていない部屋で

弟と二人きりになると、弟を思いっきりつねった。

 

母と弟が楽しそうに会話してることに、嫉妬していないとでも?

 仲間外れにされていることは感じるよ、わかるよ。

 

 言葉のない自閉症長男は自分をのけ者にして

母親と楽しそうに喋っている弟が妬ましくてたまらない。

喋れなくても会話に入れてよ。そんな気持ちが見え隠れ。

「返事が出来なくとも、長男にも話を振ってやったら」と私は言った。

 

 

 

幼児期からこばとの療育に通って来ていた

重度自閉症男児が1年生になった。

両親は、普通学級の子ども達もかかわりが持てるよう支援学級を選んだ。

3っつ離れた定型発達の兄がいた。

兄には一年生になった時机を買ってやったが、

支援級に入った自閉症次男は

机に向かって学習することはなかろう、と机は買ってやらなかった。

どうせ、こばとが持たせている家庭学習ノートは

ダイニングテーブルでやってるし・・・。

入学してだいぶたった時、お母さんとの面談でその話を聞いた。

 

「次男君だって自分の城は欲しいと思いますよ。」と話した。

両親は次男君にも机を買うことにした。

お母さんが言うことには、

「あんなに喜ぶんなら、もっと早く買ってあげればよかった!」と

 

自閉症次男君、心の中でどんなにか兄の机を羨ましく思っていたことだろう。

やっと、僕も自分の城を持てた、やったーぁ!!という気持ちだったかも。

 

 

 

 面談の時、重度自閉症男児を持つお母さんが

電話で友人と、いかに自閉症息子が大変で手がかかるか、

気安い友人ということで、気兼ねなく愚痴を言っていた、

とお母さんは話してくれた。

すると隣室で泣き声がした。

1人で遊んでいた自閉症息子が泣いていた。

お母さんははっとした。大声の話しを聞かれていたと悟った。

息子は厳密な言語理解はできなくとも話の内容を理解し、

自分が自閉症であることをどんなにか悔しく、

悲しく感じていなかったとでも?

 

本人に聞える所では悪口は言わないようにしたほうがいいですよ、

喋れなくとも、話の内容は分かりますから、と私は言った。

 

 

 

自閉症児を持つお母さんは時々、子どものプライドがたかすぎて・・・

ということがある。

出来ないことも多いのに,表現できないことも多いのに、

プライドだけは高いというギャップ・・・

彼らは自分が自閉症ということを感じているし、

出来ない自分が許せないし、失敗するはなお嫌だ。

 

言葉のない重度自閉症の美少女がいた。

3歳からこばとの療育に来ていて、

行動面も落ち着き学習も入るようになったので、

小学校に入学してから、他児と少し時間をずらして言語訓練をした。

誰もいない時は指示に従って発語の練習をしているのに、

他児が入ってくるとさっと言語訓練をやめ、

席を立って自分の得意な別の課題を取りに行った。

他の子に見られたくないという見栄があった。

話せないということを知られたくない、

彼女はいつも、人の心をわしづかみする笑顔でごまかしていた。

 

それなら、出来るように素直に努力すればいいのに

・・・だが、自分の限界も知っているのかもしれない。

 

 

 

悔しい、羨ましい、負けたくないという気持ちもある。

 

 

中学生を社会トレーニンでカラオケに連れて行った時のことだ。

付き添いスタッフがメンバーを4、5人のグループに分けて

カラオケルームに入室させた。

 

幼児期は言葉がなかったが、療育後は伸びて

中度の自閉症になった、かなりイケメンの男子が

歌おうと予定していた歌をすぐ選曲した。

 

 

彼はかっこいいことに憧れた。

自分がイケメンであることを自覚しているのか、服装にもこだわりがあった。

 

ポルノグラフィティの難曲「アゲハ蝶」を歌った。

音程はいまいちの所もあったが最後まで歌いきった。

その後、代わり番に同室のメンバーが歌ったが、

残り時間も少なくなった頃、

ADHD系リズム感超抜群の男子が「アゲハ蝶」を歌った。

完コピーだった。

 

時間が来たので切り上げて退室しようとした時、

件のイケメン男子がもう一回「アゲハ蝶」を歌いたいと言いだした。

皆、帰る支度をしている中で歌った。

完コピーがうらやましく、妬ましくチャレンジする気になったのだろう。

負けたくない気持ちもあったかもしれない。

 

 

自閉症児も優越感も感じたいという気持ちがある。

 

 

中度以上の自閉症児の中には、重度自閉症児に対して

自分の方が出来ると思うと、上から目線の態度を取ることがある。

指図して、叱られるようないたずらをするように仕向けて笑ったりする。

自分の言葉をオウム返しさせたりもする。

相手の子がオウム返しすると知ってて。

先生に注意されたり叱られている友達を見て大笑いすることもある。

たぶんバカにして・・・。

 

 

 

 

自閉症というバイヤスがかかった眼で見てしまうと、

彼らの微妙な感情を見逃したり、曲解してしまいかねない。

 

知的障害があるからと言って無垢ではないのだ。

感情は普通だ。

 

 

療育は

先入観、偏見、差別、バイヤスをもたずに 

相手に対峙せよ、教える側にも教えてくれる。

 

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令和3年度の9条図書の準備が始まりました