自閉症の世界

~自閉症の世界を知って、障がい児の子育てに役立てよう~

アイデンティティの葛藤


今年、特別支援学校高等学園に入学した男子から,

こばとに顔を出したいと2度も電話を貰っていた。

だけどいつもその日突然行きたい、という急な連絡。

会いたくとも、用事や都合で会えずにいた。

 

その日の電話も突然の訪問希望だった。

応対に出た相棒のスタッフが「お久しぶりでぇ~す。」と通常よりテンション高めの声。「ええ、いますよ。今日はいつでも時間は大丈夫です。お待ちしてまぁ~す!!」

と言って受話器を置いた。

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彼のお母さんからの電話だった。

5人家族だが家族仲がいい。

そして相談事があると電話してくる。いつも突然だ。

 

昼過ぎ、彼と両親、ADHDの末っ子の3男が来た。健常の次男は来なかった。

真っ先に顔をだした3男の登場で事務室は一気に騒がしくなる。

それは犬のシェリーも3男が大好きで、遊び友達と思っているからだ。

 

「あぁ~、入って!!入って!!」

 

私は挨拶も抜きで彼を招き入れた。

中学時代、水泳をやっていてもごつごつと痩せてたが

目の前の彼は筋骨たくましい、がっしりした体つきになっていた。

 

私「どうぉ?高校は?」

彼「最高ッス!」

私「よかったぁぁぁ!!!部活は何ッ??」

彼「もちろん水泳部ッス」

母「ほらほら、なんかもっと言うことあるんでしょ!」

彼「パラ国体の水泳の選手に選ばれま・・した・・・

私「すご~い!!すごいことじゃないの!!」

彼「いやぁ~、パラだしぃ・・・

母「まだこだわってるのよ。他にも言うことあるんでしょ!」

彼「え~っと、パソコン、MOS検に受かりました。」

私「すご~い!よかったぁ~。期待してたのよ。」

 

暗めだった彼は、今明るい顔つき、自信にあふれた表情になっていた。

 

彼は三才の頃からこばとに来ていた。

グレーソーンの子だった。

 

自閉症にもみられる爪先立ち歩きや

目線の合いにくさはあったものの、自閉の症状は希薄だった。

ADHDというには動きは小ぶりで、そわそわ、もぞもぞしつつも着席は続いた。

性格的には弱気で周囲とのトラブルや衝突はなかった。

 

小学校は普通級に入った。

学習はこばとの早め早めの予習で低中学年は何とかなった。

高学年はさすがに厳しかった。

健常児の水泳クラブでの記録もよかったので父親はずっと普通級で、と望んでいた。

しかし、6年時の学習の成績を見て、父親は中学は支援級に決定した。

 

両親は2人一緒、時には別々に何回も相談に来ていた。

普通学級で劣等感を持ったり、自信を無くすことが多すぎると、自己肯定感が持てなくなり、社会に出た時マイナスに働くこともある、と話してきた。

 

5年生の後半からパソコン教室には通い始めていた。

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こばとパソコン教室

彼は支援級に対しては偏見、蔑視に近いものがあった。

自分が支援級に行くことに承服はしたけれど、葛藤は大きかった。

 

kobatokoba-kosodate.hatenablog.com

 

 

水泳クラブは普通の健常児のクラブだったので、自分が支援級に行っていることが

他の部員にばれるのではないかと、絶えずびくびくしていた。

 

腹痛を起こして水泳に行けなくなることもしばしばあった。

こばとのパソコン教室でも腹痛を訴えてトイレにこもったり、

中学校も休むことがあった。

年頃なのに食欲もあまりなく、体もがりがりに痩せていった。

 

そんなに行くのが嫌なら止めるのもアリなんじゃない?と言ってもみた。

しかし、水泳は好きだしタイムも良かったので、止めたいわけではなかった。

ただ、支援級を行っていることが水泳クラブ員にばれるのが嫌なだけだった。

 

本当に持ち堪えることが出来るだろうか、とハラハラしながら見守っていた。

 

パソこんは止めなかった。

息抜きに来ているようだった。

 

3年生になる頃、支援高等学園受験で気持ちが持ち直し、意欲も出てきた。

受験校には水泳部があった。

 

支援高校合格の電話はあったが、どうしても会いに行きたいと彼が言っていたそうで、やっと実現した。

 

彼は水泳でパラ国体にも選ばれた。

パラリンピックの強化選手にもえらばれている。

 

 

それでもまだ、自分の気持ちの中で支援級やパラを低く思う気持ちが払拭しきれていないようだ。

 

「パラスポーツの方が、記録が上回っているものだってあるんだよ。

もう、こだわる時代じゃないんじゃない?

これからは実力さえつけていけば、オリもパラも差別もなくなる時代が来るよ。」

と言うと、ストンと腑に落ちたように彼の顔が明るくなったように見えた。

 

彼の中で、自分のアイデンティティをどこに置くか、納得し、本当の自分に自信を持つようになるまでには、もう少し時間がいるのかもしれない。

 

過去記事「長い道のり」

 

kobatokoba-kosodate.hatenablog.com

 

で書いたお母さんのように。

 

 彼は

社会人になる頃には自分認め、

自分を褒めてあげたいなどと言うようになるだろう、と期待している。

 

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美貌に自信があります。