自閉症の世界

~自閉症の世界を知って、障がい児の子育てに役立てよう~

盗癖

 悲しい衝動

 

幼児期、幼年期の自閉症児は

自他の区別がつかない。

 

他児のおもちゃを勝手に触ったり、取ったりする。

食べ物も自分の好きな物であれば、他人の物でも取って食べてしまう。

勝手によそんちの冷蔵庫開けて食べものを取ろうとするなんてことはざらだ。

もちろん同行者が慌てて止め事なきをえるだろうが。

 

悪気はない、悪いことをしたとも思わない。

まず所有の概念が育ちにくい。

自分の物も他人の物も自分が欲しい、触りたい、食べたいと思った時は

手が出てしまう。

 

~していい?などと相手の同意を得る、と言う意識をもつまで

自閉症児は結構療育時間が必要だ。

 

 

 

周囲の大人も、幼児、しかも自閉症とわかれば

人の物に触っちゃだめよ、お友達の物は取っちゃだめよ。

と、優しく注意するにとどめるだろう。

自閉症児のこの類の行為は誰も盗んだ、とか泥棒したとは言わないだろう。

 

だがコミュニケーションは普通だが知的障害がある子の場合

他人の物取ったり、勝手に触ったり、食べたりした時

悪いことをした、と言う自覚があり

それを見た人は盗んだ!とか泥棒した!とか

注意の仕方も厳しく変わってくるだろう。

 

 

自分で療育の場を開設する前、40歳の時

小学校の特学(特殊学級、今の支援学級)に一年間勤めていた。

 

重度、中度の自閉症児3名、知的障害、難聴などの重複障がい児4名のクラス。

女の子は一人。知的障害の3年生だった。

顔はお世辞にもかわいい系ではなかったが、性格は優しくクラスのなかでは

番役に立ち、安心して用を頼めた。

 

担任したばかりの時、

言葉のない多動で、いつどこへ行くかわからない重度自閉症男児

私はいつも目の届く所に置き、移動する時は連れ歩いていた。

が、トイレに行く時だけはやむを得ず知的障害女児、ゆきちゃんにみてて!

と、と頼んだ。

 

重度自閉症男児もやがて目を放せるようになり、

校庭から自分で教室に戻れるようになって、(もちろん遠くから見てはいたが)

教室は楽しく授業が進められるようになった。

 

 

問題はゆきちゃんに盗癖があったことだ。

 

隣の教室が体育で体育館などに行っている隙、

些細な小物、大したものではない手の中に隠れるような物持って来てしまう。

折り紙とか、消しゴムとかかわいい感じのものではあった。

 

彼女の持ち物ではないとピンとくる私。

 

「先生に欲しいと言ってくれれば、先生があげるのに・・・・どうして他所のクラスにいってもってくるの!!」

 

ほとんど哀願調で、繰り返し言っていはみるものの、

他の教室に入り込んでくすねてくる、のは続いた。

 

彼女がどうでもいいものを盗みたい衝動に駆られるのは、

決まって父親に叱られた日ということが分かってきた。

 

家庭訪問をした日、家にいたのはお父さんだけだった。

ゆきちゃんと弟は外に出ていた。

 

狭いながらも家はきちんと片付いていた。

お父さんは

「俺は若い頃、少年院に入っていたから、何でも身の周りの事はきちんとできる。」

と言った。

 

確かに、ちゃぶ台の上に給食のような食事の用意がしてあった。

しかし、ちらりと見た限り、家族全員分の食事数でないような・・・1人分。

 

お父さんはお母さんの悪口をずけずけ言っていた。

刺青も見せてくれた。

かって、反社会的集団に入っていたようだったが、

今は足が悪く、松葉づえが手放せなず、働いてもいないようだった。

 

 

その時、何をしゃべったかもう覚えていないが、

「是非授業参観にきてください」みたいなことを言ったように思う。

 

お父さんは松葉づえをついて不自由そうに歩きながら授業参観にきた。

 

お父さんは教室にはいらず、廊下から授業を見ているので、

私は廊下に顔をを出し、

「お父さんそんな所にいないで教室に入ってくださいよ。」と言うと

「いや、俺はここでいい。」と言って教室には入ってこなかった。

 

ゆきちゃんのお母さんは小太りの人で、美人とは言い難かった。

私が赴任する前は、たびたび子どもを置いて家出することがあったらしい。

私が担任している時は一度も家出はなかった。

 

お母さんは毎日、自分の日記をかいて娘に持たせてよこすので、

私も毎回、何かしらコメント書いて渡した、

 

その中でお母さんはお父さんのことを縁あって一緒になった人だから・・・

と書いてきたことがあった。

きっと、暴言や暴力は日常的にあったのだろう。

 

私が会ったかぎりでは、父親は愛想がよかったが。

 

ゆきちゃんも父親に叱られと言うより、どなられ暴力を振るわれたことが

たびたびあったかもしれない、ということは想像に難くない。

 

 

30年も前の事、虐待について社会もそんなに神経をとがらせていなかった。

家庭への介入はよしとされなかった。

 

彼女の盗癖は家庭で何かあった後におきることが多かった。

盗癖はゆきちゃんのsosだったかもしれない。

 

 

 

彼女の言葉をもっと聞いてやればよかった。

お母さんは毎日大学ノートに長い日記を書いてきたが・・・

雪ちゃんはあまり自分の気持ちを言わなかった。

 

彼女の場合、盗むという自覚があり、それが盗みとわかっていた。

自閉症児が欲しいというだけで物を取るというのとはわけが違った。

 

 

欲しかったら先生に言って!と言っても彼女の悲しい衝動はとめられなかった。

よしのゆきこちゃん。

 

今は中年のおばさんになっているだろう。

負の連鎖は断ち切れているだろうか?

 

 

裕福で家庭で大事にされているのにもかかわらず、盗癖をやめられない女児もいた。

 

この話は次回にまわそう。

 

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やめて―