低年齢時代、自閉症児の行動に、暗い所や狭い所に潜りたがる、高い所に登って人から距離を取りたがる傾向は多く見られます。
それは一種の自己防衛的行動の表れではないか、と前回で書きましたが、そればかりでもないような気もします。
それは自己防衛とは違うんじゃないか、という経験があったからです。
幼児教室を4人ひとクラス、スタッフ3人で療育をやっていた頃のことです。
美人のお母さんが4歳の男の子を連れて、幼児教室に入りたいとやって来ました。
高齢出産で子どもは男の子と女の子の双子。
妹の女の子は多少活発で多動気味ではあるけれど、おしゃべりはあり、発達に問題はないと思う、と言いました。
男児の方は発語は無く、公的機関で診断を受けたら自閉傾向と言われたので療育に通いたい、と申込みました。
幼児教室は母子分離なのでお母さんは子供を預けると帰ってしまいます。男の子はおとなしく、泣きもせず入室しました。
しかし、教室の入り口にはボックス型の下駄箱が置いてあり、男子はそこに潜り込んで皆(といっても3人)のいる場所に行こうとしません。
そこで私は4歳の言葉のない自閉症児にいいました。
「障がいがあったって恥ずかしいことなんか何もないよ。堂々と出てきて遊べばいいんだから。」すると彼はにこっとして出てきてみんなの方に行ったのです。
それから3回ぐらい療育が経過した時、療育終了後おかあさんと面談しました。 子どもはおとなしく、一人で同室のおもちゃや本で遊んで待つことが出来ました。
お母さんの主訴は言葉が出ないことと、妹のおもちゃを妹が寝ている時などに勝手にいじって困る。使い方もわからない、頭を使うおもちゃなのに、という内容。
「お母さんそりゃないですよ。同い年の兄妹なんだから、同じものを欲しがって当たり前ですよ。使い方が分からなくても買ってやるべきです。」と私は言いました。
面談が終わって男の子を呼ぶと、彼はにこにこしながらお母さんに近づいて抱きつき、「かえろ!」と言ったのです。
お母さんはびっくりして「いましゃべった?」と私の顔を見ました。
子どもは自分の気持ちが分かってもらえた、とうれしかったのかも。
療育している時、自閉症児は自分が自閉症だと分かっているのでは?と思わされることが何度もありました。しゃべれなくとも存在を認めてほしい!!!