妖精? or 小人?
平成元年に開始したこばとには自閉症とその周辺の子ども以外にも
様々な障害を抱えた子供が(数は少ないけど)療育を受けに来ていた。
こばとはすべての子どもに門戸を開いていたから。
癲癇からくる知的障害。
先天性筋ジストロヒィー
小頭症
ピエールロバン症候群
レット症候群
染色体異常
ウィリアム症候群
ポスナー・シュロスマン症候群?(お母さんも覚えられない、と言っていた。)
ウィリアム症候群の子は女の子だった。
白雪姫の森の小人たちはウィリアム症候群だとか言うような
話をちらッと読んだことがあったような・・・。
ウィリアム症候群
第7染色体の一部が欠けてしまう遺伝病
妖精?のような顔つきが特徴。くちびるが分厚い。
視覚空間認識の障がい
高い社交性
言語能力の優位性。
彼女は若い母親と高齢の父親から生まれた。
こばとには就学前から療育に通って来ていた。
髪の毛はくるくる巻毛で、ウィリアム症候群の特長がよくあてはまっていた。
ピーターパンに出てくる妖精というより、
白雪姫の小人に近かったかもしれない。
分厚いくちびるで、よだれも漏れがちだった。
お母さんの好みなのか、紫色系の服を着ていることが多く、
形にはならない絵を描いても紫色を多く使った。
言語能力の優位、高い社交性はそのものズバリ!おしゃべりだった。
彼女は斜視でもあったので、対面していても目線は合いにくかった。
文字が読めるようになり、形は悪いが文字も書けるようにもなった。
視覚空間認識の障がいもあったが、重度自閉症とも違うものがあった。
絵と単語のマッチングする課題で
リンゴという文字を読み、リンゴの絵も分かるので、
線でつながせようとすると、見ている所と全く違う方向に手を動かして線を引くので、
わざとふざけてやっているのではないか、と疑ったほど。
彼女は真面目だった。
注意や叱責はせず、次は手介助で誘導してやった。
繰り返しやっていくうちかなり改善された。
不思議な力もあるようだった。
夏合宿に連れて行った時の事
見送りに来たお母さんは、お迎えは自分が来れないので
お兄さん(前妻の息子)に来てもらうことになっていると、言うので
「あぁ、分かりました。」と答えておいた。
合宿の最終日、帰りの荷物づくりをしていた時、
「〇〇ちゃんちはお兄ちゃんがお迎えに来るんだよね。」と言うと、
彼女は「お兄ちゃんはこれなくなったんだって。お母さんが迎えに来るの。」
と言った。
「お母さんは“お兄ちゃんが来る”と言ってたよ。」
彼女の思い違いを軽くいなして終わりにした。
特急電車に乗って解散駅に到着し、
迎えに来ていた保護者にただいまの挨拶をして、子ども達を引き渡した。
彼女のお母さんが近づいて来て、兄が急に来れなくなったので、
と言って彼女を引き取って帰って行った。
スタッフ皆、彼女のテレパシーにすごく驚いたことを覚えている。
彼女は小学の高学年になる頃から、外の出歩きが多くなった。
お母さんはひどく困って、悩んだ。
勝手に家を出ないように、玄関や外に出られそうな箇所にさんざん工夫をした。
それでも出歩かれた。
ある時は電車に乗ってしまった。彼女も鉄ちゃんだった。
携帯のない時代、障がい児の多くの親はこどもの服の背中の目立たない所に、
迷子になった時のために連絡先などを縫い付けてはあった。
鉄道警察やら、お客さんやら車掌さんのおかげでいつも帰っては来たが。
彼女は人見知りは全くなく、社交性豊かでお喋り好きだった。
昔の地方の電車は向かい合わせに座るボックス席の電車が多かった。
なので、彼女は対面する人としゃべりながら楽しく電車旅をした。
お菓子など貰うこともあったようだ。
怖い思いをした。まずいことをした。心配をかけた。
そんな気持ちは微塵もなく、楽しいだけだった。
女の子なので心配だったが、相手は彼女のおしゃべりに閉口するかもしれない。
社会のシステムもどんどん変わり、高等部になる頃には
出歩きは下火になったなったようだ。
彼女は障がいがあっても、
気後れなどせずどんどん社会に出て行く時代の先駆けだったのかな。
お喋りしないで働いているだろうか?
今はもう30代のはず、健康でいてくれればいいが。