自閉症の世界

~自閉症の世界を知って、障がい児の子育てに役立てよう~

海馬

トラウマ・PTSD・心的外傷後ストレス障害

 

 

こばとの平成時代は多くの子どもが療育に通って来ていた。

お母さん方の中には、理解しがたい自閉症行動を見て、

頭の中がどうなっているのか、見てみたい、

と冗談交じりに言う人は何人かいた。

 

 

中度よりちょっと低い自閉症状を持つ男児のお母さんも

頭の中を見たいと言った一人だった。

 

病院で息子の頭の中を見てもらおうと思ってる、と言ってきたので

私は

自閉症は器質(ハードウェア)の問題ではなく、

機能(ソフトウェア)の問題だから、

病的な変質は見られないと思いますよ。」と言った。

 

そこまで真剣に考えているとは思っていなかった。

 

しかし、お母さんは本当に実行したのだ。

 

お母さんの言葉からしばらくたったある日の療育の時

なにげなく男児の頭を見たら、

髪の毛の分かれ目からぐるりと頭皮を横切る線が見えた。

縫い目もあった。

スタッフと顔を見合わせて、本当にやったんだね、と目で会話した。

 

男児のお母さんは、息子の頭の事をなにも言ってこなかったので

その後、何げなく病院の結果はどうでしたか?と聞いた。

お母さんは言葉少なく、「何も見つかりませんでした。」と言っただけだった。

 

言った通り出でしょう、という言葉を飲み込んで、

何もなくてよかったですね、と軽く言うにとどめた。

しつこく問いたださなかった。

 

 

 

 その頃から随分たっているが

脳科学の驚異的進歩でいろいろなことが明らかにされて来た。

 激しいストレス、長期のストレスにさらされると

脳の海馬や扁桃体に萎縮や変容が認められるということだ。

 

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脳の重要なポジション

 

トラウマPTSDなどの言葉がマスコミに取り上げられるようになり、

世間で一般的に使われるようになり、

耳慣れたものになってきた。

 

虐待や災害が頻発するようになってから

心的外傷後ストレス障がい心のケアとセットになって

一般的になってきた。

 

 自閉症の世界でも頻繁に使われるようになった。

自閉症児の前後の脈絡に関係のない(と一見、周りのものには思われる)

突然の激しい行動、原因の見当もつきにくい行動

 パニック、フラッシュバック

 

PTSD・トラウマが根底にあるのではないか?

 

この言葉の もとはと言えばベトナム戦争

べトナム戦争のゲリラ戦に参戦し、帰還したアメリカ軍兵達の

日常生活復帰を困難にしてしまった戦争体験。

フラッシュバック。パニック。過剰反応!!。

 

 自閉症の行動もベトナム戦争帰還兵の行動に類似しているかもしれない。

ちょっとした音に過剰反応したり、フラッシュバックして騒ぎ出す。

イレギュラーが起きるとパニックを起こす。

 

 

自閉症の海馬や扁桃体にも萎縮や変形が見られるのだろうか。

それにしてもこの世に生を受けてそれほど年月がたっていないのに、

なにが彼らのトラウマになっているのだろう。

 

いや、脳の神経伝達物質の過不足で

些細なことでもトラウマになり得るのが自閉症かもしれない。

 

療育中は自閉症に対する理解もそんなに進んでいなかったので、 

 トラウマになりやすい脆弱な脳に

トラウマの上塗りになるような経験をさせてしまう例も少なくなかったろう。

 

こばとの幼児教室にお稚児さんのようにかわいい

 重度の自閉症男児が療育に来ていた。

両親はとてもかわいがっていた。

発語はあったが、つぶやくような独り言が少々。

 

 

男児が、ある時からあご叩きを始めたのでびっくりして、

お母さんに理由と言うか、発端を聞いた

 

きっかけは歯科治療だった。

男児の虫歯が放置の限界を超えたので、

近くの歯科医院に連れて行った。

悪化した虫歯の治療は大事になった。

ネット+看護師二人で押さえつけ何とか治療終了。

 

家に帰ると男児は寝転んで、大声でわめきながらあごをこぶしで叩いた。

それから、あご叩きが始まった。

 

いやだった、怖かったと言葉では言えないので、

その時の状態を行動で再現してみせた、ということなのだろうと、

お母さんの話から推察できた。

 

悲しいことにそのあご叩きは常同行動化して、

いやな気持はすべてあご叩きで表現するようになってしまった。

 

 

 あご叩きの自傷はこれでもか、というように激しくなり、

こぶしであごを叩いて血が出る時もあった。

 

お母さんが「叩いたら痛いでしょ!」と止めようとすると

意地になって叩こうとする。

 

この子は痛みを感じないのかしら?

痛みが快感になっているのかしら?

お母さんは悩み、自傷する息子を見る度に自分が苦しくなっていった。

 

 

つらさのあまり子どもには(言ってはならない一言)を、

たった一度だけ言ってしまった。

 

ある時、息子が遊びながらつぶやいているいつもの独り言の中に、

(言ってはならない一言)が混じっているのを聞き、お母さんは愕然とした。

 

一人息子を療育に連れてきた時お母さんが言った。

「たった一度しか言わなかったのに、

褒める言葉はたくさん言っているのに、

なんであの言葉だけ・・・」とお母さんは涙ぐんでいた。

 

百万回の誉め言葉は覚えないのに、

たった一言が彼の脳に突き刺さったまま取れない。

母親の言ってはならない一言が、トラウマになったのかもしれない。

  

 

こばと男児自傷やこだわりには心を痛めた。

考え得る対応を試みた。

あご叩きに対しては物理的にあごが叩けないよう肘にサポーターを装着した。

あごに刺激が行かなくなると、次第に叩くのを忘れるようになった。

サポーターをはずしていられるところまで来ていた。

 

それなのに、男児が支援級の小学3年時

床に寝ころんだ男児に手を焼いて、起こそうとして

中年の女性担任が馬乗りになった。

 

一瞬で歯科治療の場面にフラッシュバックした男児

あご叩きの自傷行為を再発させてしまった。

 

お母さんの心痛は重なるもので、

自閉症の一人息子をとてもかわいがり、こばとの送迎もしばしば

受け持ってくれていた父親が胃がんでなくなった。

 

 

程なくして、お母さんは自閉症自傷行為に理解のある支援学校への

転校を決めた。

 

転校後の様子についてお母さんから度々話を聞いた。

男児もあごを叩きたくない!気持ちがあり、

シャツの中に腕をいれて叩かない様にしている。

学校では自分から腕を出せるのを見守っていてくれるそうだ。

 

 

 

あれからずいぶん経っている。

どうしているだろうか、30代になっているはずだ。

 

 

 

海馬は短期記憶を長期記憶に保存するかどうか選別する

司令塔の役割をもっているそうだが、 

感情とリンクした記憶はしっかり覚える。

喜怒哀楽の中で特に嫌な記憶程しっかり残るそうだ。

 

恐怖、嫌悪、怒り、後悔など負の感情はなかなかフェードアウトしてはくれず、

繰り返し繰り返し浮上し、

時にはさらに鮮明なったり、

強化されたり、

ちょっとしたきっかけでフラッシュバックする。

 

やっかいだなぁ!!

 

しかし、嫌な事、危険なことは忘れないようにするのが

人間の生存に必要なことでもあるのだろう・・・・

 

 

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卒業生の刺し子